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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)1247号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人今福朝次郎の上告理由第一点について。

被上告人(被控訴人)訴訟代理人弁護士福地種徳が昭和二八年九月七日の原審口頭弁論期日において、従来求めていた金三〇万円及び損害金の請求を金一五万円及び損害金の請求に減縮したことは、所論のとおりである。そして本件において右請求の減縮は、訴の一部取下と認むべきこと記録上明らかであるところ、福地弁護士は民訴八一条二項二号の訴の取下についての特別の委任を受けていなかつたことも所論のとおりであり、被上告人代表者においてその後右取下の行為を追認したことも記録上窺えないから、右請求の減縮は無効であるといわなければならない。従つて原裁判所は、請求の一部につき裁判を脱漏したものであつて、右の部分はなお原審に係属しているものと解すべきである。されば原審としては、前記訴の一部取下につき被上告人の追認を得て訴訟を終了させる手続をとるか、申立により又は職権をもつて右部分につき口頭弁論を開いて本案の追加判決をなすべきものである。しかしながら、右手続上の不備は、原判決が本件手形金一五万円及びこれに対する法定利息の範囲内で被上告人の請求を認容したことを違法ならしめるものではないし、また上告人において上告の理由として不服を申立つべき筋合でもないので、論旨は理由がない。

同第二点について。

本案の裁判に対する上告の理由がないときは、訴訟費用の裁判に対する不服の申立は許されないこと、当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(オ)七三四号同二九年一月二八日第一小法廷判決、集八巻一号三〇八頁、昭和二六年(オ)八〇三号同二九年七月二七日第三小法廷判決、集八巻七号一四四四頁)。されば、第一点の論旨の理由がない以上、本論旨も採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、論旨第一点につき裁判官小林俊三の後記少数意見ある外裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。

裁判官小林俊三の少数意見は次のとおりである。

民事の控訴審で被控訴人(勝訴原告)が請求の一部を減縮したときは、第一審判決の主文は、減縮された請求の趣旨に適合しないことになるから、控訴判決の主文にはこれを明らかにする方法をとらなければならないと考える。その理由は昭和二七年(オ)第六〇三号同二九年七月一三日第三小法廷判決において述べたとおりである。本件においては、被控訴代理人は、訴取下の権限がないのに訴の一部取下と認むべき請求の減縮をしたのであるから、その減縮は無効でありその部分はなお第一審に係属しているものと解すべきこと判示のとおりであるが、原審が請求の一部減縮を有効と認めながらその主文においてこれを明らかにせず単に控訴棄却をしたに止まる点においてなおその違法が存するものと見なければならないから、本件についても前記少数意見を主張する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 木村善太郎 裁判官 垂水克己)

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